石黒 太「民主主義を巡る理論と現実――討議的民主主義へのプラグマティズムのアプローチ」仲正昌樹編『社会理論における「理論」と「現実」』御茶の水書房、2008年、を読む。
- 作者: 仲正昌樹
- 出版社/メーカー: 御茶の水書房
- 発売日: 2008/03/01
- メディア: 単行本
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ジェームス・ボーマンの議論を中心に、プラグマティズムの立場からの(とされる)討議民主主義論を評価・擁護している。
deliberative democracyと「事実」との関係についての叙述が興味深かった。また、ボーマンの議論が、(これまでもちょっとはそう思っていたのだけど)今後の研究の手がかりになりそうということもあらためて認識できた。
もっとも、様々なパースペクティヴを「包含」(inclusion)するプロジェクトが、熟議民主主義の「実現可能性」を高めると言えるのかどうかは難しい。そのためには、(著者/ボーマンも言うように)熟議の参加者たちがそのような多様なパースペクティヴを「許容」できなければならないはずだが、この「寛容」の要請はfeasibleという用語で表現できるものなのかどうか。その方がより民主的であることは間違いないが、直ちに熟議の「実現可能性」を高めるとはいえないのではないか。
もちろん、多様なパースペクティヴの包含は、その方が「不正義や不平等を矯正する」(107頁)ことに資するかもしれない*1。しかし、この場合、強いて言えば、熟議民主主義は、より公正な社会を作るという「実践」の観点から擁護されているのであって、「実現可能性」の観点とは異なっているように思われる。著者が、途中で「事実」を「実践」と読み替えているように見えるのだが、そのことは、「実現可能性」を(取り組むべき/目指されるべき)「実践」と読み替えることを意味しているように思われる。
それはともかく、ボーマンの議論のプラグマティズムの観点からの意義を紹介・検討していることは、大いに勉強になった(どっちかというと、ハーバーマスの文脈で理解していたので)。ボーマンの議論の紹介・検討って、あんまりなかったんじゃないだろうか、
以下、ボーマンの論文についてメモ。
- James Bohman (2004) "Realizing Deliberative Democracy as a Mode of Inquiry: Pragmatism, Social Facts, and Normative Theory," Journal of Speculative Philosophy, Vol. 18. No. 1.
- James Bohman (2004) "Decentering Democracy: Inclusion and Transformation in Complex Societies," The Good Society, Vol. 13, No. 2.
- James Bohman (2003) "Deliberative Toleration," Political Theory, Vol. 31, No. 6.
- James Bohman (1999) "Democracy as Inquiry, Inquiry as Democratic: Pragmatism, Social Science, and the Cognitive Division of Labor," American Journal of Political Science, Vol. 43, No. 2.
- James Bohman (2001) "Participants, Observers, and Critics: Practical Knowledge, Social Perspectives, and Critical Pluralism," in William Rehg and James Bohman eds., Pluralism and the Pragmatic Turn, The MIT Press.
- 作者: William Rehg,James Bohman
- 出版社/メーカー: The MIT Press
- 発売日: 2001/09/04
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最初の雑誌以外は、すぐ確認できそう。最後の本も、借り出しているし。
*1:もっとも、このことも必ずしも保証されているとは言えない。