論文刊行

 この度、熟議民主主義に関する学術雑誌 Journal of Deliberative Democracy, Vol. 16, No. 2, 2020 に、拙稿 'Another Way for Deepening Democracy without Shortcuts' が掲載されました。Journal of Deliberative Democracy は、以前は Journal of Public Deliberation という名称で、今年から(第16巻から)雑誌の名称を変えています。本号は、2019年末に刊行された Cristina Lafont, Democracy without Shortcuts (Oxford University Press) をめぐる誌上シンポジウムとして企画されています。
 リンク先を見ていただくとわかりますが、寄稿者は、熟議民主主義研究の錚々たるメンバーです。Jane Mansbridge, Robert Goodin, James Fishkin, Andre Bachtiger, Simone Chambers, Mark E. Warren などが名前を連ねています。冒頭に、Jurgen Habermas による「コメンタリー」も掲載され、著者のLafontによるリプライもあります。私の論文は短いものですが、こうしたメンバーに混じって拙稿を掲載してもらえたことは、 私にとって大変光栄かつうれしいことです(なお、特集ですので、依頼を受けた上で査読を経ています)。下記のリンク先から、ダウンロードできます(他の論文もできます)。

delibdemjournal.org


 拙稿は、民主主義の回路を「ショートカット」している諸議論を批判するLafontの基本的な方向性には賛意を示しつつ、「ショートカットなき民主主義」を目指す「もう一つの道」があるのではないか、と問題提起するものです。その際、Lafontが重視するself-government(自己統治)の概念に注目し、これをより多層化・多元化して考えていくべきではないか、という議論を行いました。もちろん(?)、私の持論の家族などの私的領域をも、一つの自立した自己統治の場として捉えていくという話です。単に多層化・多元化というだけではなく、熟議システム論の枠組みを援用することで、家族を「熟議システム」として捉えることを試みました。この話は、拙稿「熟議システムとしての家族」(拙編『日常生活と政治』岩波書店、2019年)でも行っていますが、本稿では「システム」としての家族の境界線をより拡張して理解できることを論じました。
 そういうわけで、私としては自分の主に日本語で書いてきた議論を(2014年の英語論文はありますが)、英語でも展開するとともに、少々発展させたつもりです。その意味では、海外の研究者により私の考えを知ってもらえる機会となったと思います。もっとも、他の原稿を読むと自分の原稿と比較して落ち込んでしまいそうなので、まだ読んでいませんけれども(苦笑)。