2023年

 かなり長い間、ほとんど研究会等の告知だけになっているこのブログですが、2023年になったということで、普通の(?)記事も書いてみたいと思います。
 新年を迎えるにあたって・・・というよりも、ここ数年ずっと意識にあるのは、「気が付けば50代になってしまった」ということです。研究者の世界でも、「若手」(アーリー・キャリア)や「中堅」といった言葉が使われますが、「もう『若手』じゃないよね?」と思い始めてから、「中堅」はあっという間に終わってしまったような気がします。いえ、どのくらいの人が「中堅」なのか、確かなことはわからないのですが、でもきっと、50代はもう「中堅」とは言わないだろうなと思います。
 その「ポスト中堅」となって、これからどうしていくべきなのでしょうか?年代に応じて「この年代はこういう仕事を」といった考え方をする人もいるようです。ただ、私の場合、そのような形での「自己規定」は、あまり似合わないような気がします。ですから、あまり厳密には「年代」に囚われずに、とはいえ全く囚われないということもなく、いくつか意識していることを書くと、次のようになります。

●今後は、より「英語で書く」ことを意識したいと思います。これは、ここ数年ずっと思っていることです。でも、思っているだけで、なかなか結果に結びつけることができていません。遅くとも高校生からの「英語が苦手」の意識が、しっかりと取り組むことを妨げていると思います。ただ、英語で書いていかないと、自分で自分に納得がいかないという感覚は、ますます強まっているようにも思います。これには、年代など関係なく、取り組んでいきたいと思います。とりあえずは、昨年の学会報告ペーパーを英語化することから始めたいと思います。
●研究テーマ的なことでは、大きくは三つです。一つ目は、家族と政治・民主主義について、最近講義や講演などで小出しにしているアイデアをより発展させて、論文にすることです。二つ目は、「ノンヒューマン」との民主主義について、自分なりの視点を持てるようにすることです。最後は、「資本主義と民主主義」のプロジェクトのまとめ方を考えることです。その他にもいくつか本を作る話もあり、これらも進めていきたいと思います。
●こちらは、より「年代」を意識することですが、「後進」の人々の道を作っていきたいという思いもあります。「道を作る」といっても、研究者なのですから、まずは自分が自分の分野・テーマで、「後進」の人々に「先行研究」として、時には批判的に、そして時には「安心して」参照してもらえるような、それなりにしっかりした研究を発信し続けることだと思います。「『安心して』参照できる」というのは、やや変な言い方かもしれませんが、要は「このテーマではこういうちゃんとした先行(諸)研究がある」ということは、新たに研究を始めていく人にとっては、他の人々(例えばその人の指導教員)に「なるほど、そういうことならば、その研究もありだね」という形で自分の研究を理解してもらうために大切なことだと思うのです。そう見なされるような研究を続けていくことが、大切だと思っています。
●「道を作る」ことに関して、「後進」としての大学院生の教育・指導にも、(これまでも取り組んでいますが)より意識をもって取り組みたいと思います。と言っても、何か特別なことがあるわけではありません。ただ、研究のトレーニングが色々とフォーマット化されてきている面があるとはいえ、大学院生の指導については、最終的にはそれぞれに応じた助言やこちらの意識の持ち方が必要だと思います。「それぞれに応じた」というのは、一つには、それぞれの院生の「やりたいこと」や「得意なこと」をできるだけ尊重しつつ、他方で、「研究」として「こうしなければならない」「こうするべき」ということを伝えていく、その加減というかバランスのことがあります。もう一つは、それぞれの院生のキャラクター・パーソナリティを踏まえた助言や向かい合い方を意識するということです。
 私自身は基本的には「各自が自由にやればよい」と思っています。でも、実際には、それだけでよいとは限らず、この「基本」を曲げなければならない時もあります。それでも、「基本」を見失うことなく、院生たちに向き合いたいと思います。
 そして、研究者の場合、教育・指導を行うといっても、「プレイング・マネージャー」として、というところがあります。つまり、自分自身も「選手」として研究を行いつつ、「監督」も務めるということです。そして、「選手」としての評価が「監督」としてのあり方に影響するものだと思います。そういう意味でも、自分自身の研究になお取り組むことは大切だと思います。
●これも「年代」に関わることですが、自分の身体の健康をより意識しなければならないと痛感しています。人生は明らかに後半に向かっていますから、当然、身体にも「悪い」ところが出てきます。今のところ、「元々悪かったところから悪くなっていく」という感触を持っていますが、そのことを受け止めつつ、しかし自分へのケアをより意識しようと思います。
●最後に、家族のことについて。子どもたちは、今では大学院生と大学生(学部生)になって、夫婦二人だけの生活になって3年近くが経とうとしています。子どもたちと一緒の生活が20年くらい続いた後で、私たちの人生は新たな局面に入ったのかなと思っています。最近読んだ、ジェニファー・ペトリリエリ(髙山真由美訳)『デュアルキャリア・カップル』(英治出版、2022年)によると、「カップル」(異性愛カップルに限りません)の人生には3つの転換期があるそうですが、私たちの現状はその三つ目にあたると思います。転換期に大事なことは、「私」ではなく「私たち」の問題として、自分たちの人生のことを話し合った上で、進むべき道を見つけていくことだそうです。「私」ではなく「私たち」の問題としてというのは、まさに「政治」を行っていくということだと思います。そうした意味での「政治」の大切さをあらためて受け止めながら、これからの人生を歩みたいと思っています。