読書

 『期待、制度、グローバル社会』(勁草書房、2009年)の第1章、河野勝「制度、合理性、期待――新しい政治経済学のための原理的考察」を読んでみた。

期待、制度、グローバル社会

期待、制度、グローバル社会

 ここ数年、経済学に対抗した形で「政治経済学」を提起されている河野先生の論調が、本章でも、いかんなく発揮されている。
 特に興味深いのは、盛山和夫に依拠して、「一次理論/二次理論」の区別を導入し、それを経済学の、特にゲーム理論的枠組みへの批判のためのツールとして用いている点だろう。というのは、かつて某シンポで、河野先生が盛山氏の議論を肯定的に参照する報告者に対して、かなり厳しい(と僕には感じられた)批判をされていたからだ。認識を変えられたのだろうか。あるいは、その時は単に、盛山氏の著作を読まれていなかっただけだろうか。
制度論の構図 (創文社現代自由学芸叢書)

制度論の構図 (創文社現代自由学芸叢書)

 河野先生のおっしゃることは、(厳密な理解を抜きにすれば)概ねよく理解できる。また、興味深いといえば、「文芸」を実に巧みに利用している点も、新しい方向性(いや、前からか?)を示している(し、何より、読んでいて素直に面白い)。
 しかし、いくつか疑問も。
 第一に、30頁最後の記述は、(勘違いかもしれないが)アクターの相互作用から制度を切り離してしまっているように見える。制度自体もまた、アクターの相互期待の(無限後退の?)中で形成されるものとしか、言えないのではないか。
 第二に、個人主義から相互作用に視点を移したことは、経済学から社会学への立脚点への移動であるように見える。しかし、個人的には、経済学の存在論社会学的なもので置き換えた上で、では「政治学」はどうなるのか、という点が気になる。
 つい気になってしまうのは、かつて大嶽秀夫氏が、『戦後政治と政治学』において、政治学は「臨床の学」であって、理論的なものは突き詰めていけば、経済学か社会学になってしまう(大意)と書いていたことである。
戦後政治と政治学

戦後政治と政治学

河野先生の「政治経済学」が、どのような意味で、従来の「経済学」だけでなく、従来の「政治学」をも乗り越え、かつ、にもかかわらず「政治・経済・学」でありうるのか、大変気になるところだし、その展開に大いに「期待」したいところでもある。