柴田寿子先生が亡くなった。
先生と初めてお会いしたのは、2007年11月のとある研究会の場である。その研究会は、その次は2008年2月に開催され、そこでお会いしたのが二回目である。その次の会は5月だったが、その場に先生はいらっしゃらなかった。体調が理由だったか、単に都合がつかなかったのかは、覚えていない。
結局、僕は2回しかお会いしていない。ただ、それ以前から(そして最近もまた)親しい友人の話に、先生の名前がときどき出ていたので、出会った回数以上に知っている気分にはなっていた。
最初に訃報を聞いたとき、もちろん、ただただ驚いたのだが、その次には、「また女性の研究者が亡くなってしまったか」と思った。「また」というのは印象論であり、「では男性はそれほどには亡くなっていないのか?」と問われると、よくわからない。ただ、僕の問題関心あるいは人的に比較的近いところで、比較的若い年齢で亡くなっている女性研究者が多いように感じただけである(その中には、僕とほぼ同世代で30代でなくなった数名の方も含まれている)。
そう思いながら、書店で見かけたもののまだ購入していなかった、田中浩編『思想学の現在と未来』(未来社、2009年1月刊行)を急いで購入した。柴田先生の、おそらくは生前発表の最後の文章と思われる(今後、先生の論文を集めた本が出版される予定と聞く)、「古典をめぐる思想史学の冒険」が掲載されている。思想史の方法論としてももちろん教えられるところが多かったが、「三重苦」(「将来性のない思想史を学ぶ」「女性」の「子持ち」)と友人に呼ばれたという、院生時代の記述がもっとも目に留まった。子どもを保育園に預けながら(展望のない)大学院生を続けたと書かれている。おそらく1980年代前半の時期だろうか。大変な物理的・精神的苦労であったと想像されるが、しかし、先生はその状態だったからこそ、既存のものにとらわれない自由な思考をものにできたとおっしゃっているように思われた。
思い返せば、たった2回お会いしただけの先生に対する印象は、「颯爽とした」というものであった。「三重苦」を乗り越えたが故、であったのだろうか。
道半ばで逝かれた先生の想いを想像しつつ、道の「続き」を作るべく、「颯爽と」進んでいきたいと思っている。
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