メモ

 憂鬱に歯を食いしばって立ち向かいつつ*1、早速、
Hartley Dean, The Implications of Third Way Social Policy for Inequality, Social Cohesion, and Citizenship, in J. Lewis and R. Surender eds., Welfare State Chnge, Oxford UP, 2004を読んでみる。
 この論文は、イギリスのニューレイバーの「第三の道」の社会政策の特徴を、「不平等」「社会的凝集性social cohesion」「シティズンシップ」についての4類型モデルをベースに分析しています。著者の理解は、ニューレイバーは4類型のうち一つの類型(welfare to work)をベースにしながら、他の3類型の発想も(矛盾をはらみつつ)再解釈して組み込んでいるというものです。その際、workfareも、それぞれに応じて四つの類型に分けられています。

1)ジョブ・クリエイション
 北欧型のしばしば「アクティベーション」と言われているタイプ。市民を「社会の生産的メンバーとして組み込む」こと、その意味での「普遍的な参加をプロモートすること」が狙い ということになる。失業者の職業訓練や労働経験プログラムの実施などが強調される。

2)労働への権利right to work
 大陸型保守主義レジームで見られるワークフェアのタイプ。ワークフェアの目的は、保守主義レジームで見られる雇用歴をベースとした社会保険に基づく社会的保護のシステムでは十分に保護されていない人々を助けること。ワークフェアとは、まさに社会統合に関わるもの。主たる目標は、労働市場の機会を創出することであり、労働への権利を擁護すること(ただし同権利は必ずしも保障されるとは限らない)。
(つまり、労働市場から排除されているために、社会保障の受給資格が悪くなっている人々を、もう一度労働市場に組み込むことで社会保障上の地位も回復する、ということかな?)

3)ワークファースト
 アメリカ型。労働の義務の強制。ワークフェアの機能は依存の防止。強制的。

4)人的資本開発
 オランダのJobseekers' Employment、デンマークアクティベーション、そしてイギリスのニューディール政策などに象徴される。いわゆる「第三の道」と言われているものに最も近く、かつ新自由主義の経済的想定の影響を強く受けている。一方の個人化されたケースワークサポートと、社会扶助手当の撤回による不服従者へのサンクションとを通じて、hasslingとhelpとを結び付けようとする。

 興味を惹かれたのは、1)と4)とが明示的に区別されている点です。というのも、たとえば宮本太郎さんの論文では、北欧的な「人的資本開発モデル」とアメリカ的な「労働力拘束モデル(ワークファーストモデル)」との中間に、イギリスやオランダを位置づけているからです(宮本「就労・福祉・ワークフェア」塩野谷・鈴村・後藤編『福祉の公共哲学』東京大学出版会、2004年、228頁。宮本「社会的包摂への三つのアプローチ」『月刊自治研』第533号、2004年も参照)。
 宮本モデルとの関係ではもう一点、Deanモデルでは北欧型に「ジョブクリエイション」の用語が用いられ、「人的資本開発」はイギリス、オランダ(+デンマーク)に用いられている、という違いも気になるところです。Deanの類型モデルから推測するに、「人的資本開発」というのは基本的に個人主義的な考え方、したがって競争的な考え方であって、スウェーデンの連帯主義的な考え方とは相容れない、ということになるのかもしれません。
 ともかく、「人的資本開発」の持つ含意についてもう少し探求した方がよさそうです。Kさんのサジェスチョンに従ってアマルティア・センを読んでみるしかないかな。
 ただ、個人的には、北欧型と(とくにイギリスの)「第三の道」型は基本的には「ワークファースト」と区別された「アクティベーション」に属し、その上で、前者は(むしろ)個人主義=権利志向、後者は集合主義=義務志向*2という風に整理したいところなのですが。

*1:こりゃおおげさです。

*2:ただし、Deanの議論では、イギリスの「第三の道」の「市民」志向は、先の整理での「労働への権利」の考えの摂取に由来しており、「welfare to work」に直接起因しているわけではない、ということになりそうです。