エスピン−アンデルセン『福祉資本主義の三つの世界』(ミネルヴァ書房、2001年)より、ちょっとメモ。
脱商品化は福祉国家が発展するなかできわめて論争的な問題であったことは疑いを容れない。労働側にとっては、脱商品化がつねに優先課題であった。労働者が市場への依存を余儀なくされるならば、連帯的な行動に打って出ることは困難になる。労働者のもつ資源が市場における不平等や労働市場の内と外の分断によって大きく異なったものとなるために、労働運動の構築はむずかしくなる。これに対して脱商品化は、労働者の立場を強め、経営者の絶対的な権威を弱める。だからこそ、経営者は一貫して脱商品化に反対してきたのである。(23頁)
ここには「連帯」と「脱商品化」との関係についての重要な、というか、ひょっとしたら今日では(エスピン−アンデルセン本人も含めて)顧みられることが少なくなっているのではないかと思われることが書いてある。つまり、労働者は労働に従事することによって連帯するのではなく、労働に従事する必要性を相対化することによって連帯できるようになる、というわけである。
このあたりの議論は、1980年代のクラウス・オッフェらによるドイツの労働組合の労働社会学的分析の知見とも、実は重なってくる。いつも同じようなこと書いているようで恐縮だけど、オッフェらは、ワーク・シェアリング「だけ」を求める労働組合の運動は失敗せざるを得ないと指摘しているのだが、その理由は、労働のシェアだけでは、既に職を持っている人々はシェアによって(賃金面で)損をし、職を持っていない人々はシェアによって利益を得るという、この労働者間での分断を、労働組合は克服することができないだろうから、というものだった(大まかにいえば。下記のKeane編の論文集所収論文を参照)。
このラインであれば、ベーシック・インカムと労働と連帯との関係は、相反することはないだろう、と僕は思っている。
それにしても、90年代前半までとそれ以降のエスピング・アンデルセンの議論のトーン、ひいては、社会民主主義擁護論の「トーン」が大きく変化したことは明らかだと思われる。単純化して言えば、鍵概念が「脱商品化」から「アクティベーション」に変わった、ということであり、それはそのまま、福祉国家とは何かについての理解の変化を意味している。もちろん、「事実」のレベルでは、両方の面がずっと存在していたはずだから、この変化は力点の変化と言えるだろうけれども、それでも、その変化の意味するところは大きい。
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