ラウンド・テーブル

ここでは書くのを忘れていましたが、金曜日は朝から、Centre for European Studies主催のラウンド・テーブル「憲法パトリオティズムアイデンティティ」に(終日開催でしたが)午後の途中まで出席してきました。
http://ces.anu.edu.au/events/anuces-round-table-27-august-2010
参加者は全部で25名くらいだったでしょうか。政治学国際関係学部のセミナーのコーディネータをしていて、今回の報告者の一人でもあるベン以外は、みんな知らない人でした。たまたま隣に座っていた女性は、ロースクールのPhDの院生だと言っていましたが。
進め方は全部で3つのセッションに分かれていて、それぞれのセッションは、3名が20分程度で順に報告した後に、1時間ちょっとくらい議論する、というものでした。
まあ、相変わらずパワポなしの報告も多かったので、どこまで理解できているかわかりませんが、議論の雰囲気としては、もう少しハーバーマスに内在的に理解した上で議論した方がいいんじゃないかなあ、という印象でした。というか、報告者の数名はともかくとして、議論(と一部の報告)では、「実際には憲法パトリオティズムの状況にはなっていない」とか、「ドイツ特有の議論なのではないか(大意)」といった発言が多くみられたように思うからです。
良いか悪いかは別として、ハーバーマスの議論は、規範論であり「実際はそうではない」という立場から論評しても得られるものは少ないでしょう。ただ、規範論と言っても、彼の討議倫理の構想は、とりわけ90年代以降、アイデンティティを含む個別的なものを単純には否定していないわけですから(ということは、蛮勇をふるって発言してみた)、彼の議論が完全に宙に浮いているわけでもありません。あと、「ドイツ特有」は確かにその可能性はあるわけですが・・・。
といった問題とは別に、ちょっとおもしろかったのは、Robert Imreという人の報告で、(第一次世界大戦前後の)オーストリア=ハンガリー帝国の問題の原因を、ネイション(アイデンティティ)の二重性ではなくて、法の二重性に求める話でした(と思う)。これを、憲法パトリオティズムとは異なる法の機能の仕方の事例、見たいに位置づけていたと思います。歴史家の議論としてどうなのかはわかりませんが、問題設定の仕方が巧みであるところが面白いなと思ったわけです。
それとは違う意味で、同じセッションで報告したStefan Auer氏も、ユーモアたっぷりというかぶっちゃけトーク気味の方で、スライドも楽しく、素直に楽しみながら聴けるものでした。内容は、特に中東欧を取り上げて、そう簡単に国境の壁は崩れない、というような話でしたが。


まあ、僕の最大の収穫は、発言できたことです(笑)。上に書いたように、ハーバーマスは個別的なものを単純には否定していないということと、戦後日本でも日本国憲法について、特に左派的な人々の間では(いや、もう少し範囲を広くとって言うべきだったかもしれませんが、その余裕はない)、ある意味憲法パトリオティズム的な状況が存在してきたと言えるということです。


あと、思ったのは、こういう場だと、基本的に昼食も用意されるということです。今回も、会場の広めの会議室のようなところの外の廊下に、サンドイッチ類が用意され、参加者は自由に食べることができました(無料)。今回のヨーロッパ研究センターは、とてもこじんまりした建物というかほとんど大きめの一軒家のような建物数軒からなるところで、「部外者」はほとんど来ないと思いますが、比較的会議の部外者が通ることができるビルでも、こういう形式で昼食を提供しています。もちろん飲み物とお菓子も。こういう光景を見るたびに、こういうところが、案外、日本ともっとも遠いことかもしれないなあ、と思うのでした。