Wax, 2009

Amy L. Wax, "Basic Income or Caretaker Benefits?," Basic Income Studies, Vol. 4, No. 1, 2009.


 これは、ある意味で「すごい」論文だ。まあ、「すごい」と思うかどうかは、読む人の価値観に左右されるけれど。
 この論文で著者がやろうとしていることは、ケア手当(標的にされているのは、Anne Alstottの議論)を批判し、BIのほうが相対的にマシと主張することである。しかし、著者にとって本当によいのは、二人親のいる伝統的な家族だけを選択的に助成することである(が、それはいろいろ難しいので、ケア手当と二人親家族手当の「間」のBIを相対的に評価しよう、みたいな話)。
 なぜそうなるかというと、次のような話である。ケア手当は、子どもを持つインセンティブを与える結果、養育能力もない若いうちに子どもを産んで、たいていシングルになってしまう母親を支援することを意味する。しかも、そのような母親の養育能力がないだけでなく、近年の社会科学的な諸知見によると(と、著者は言う)シングルその他の伝統的ではない家族形態で育った子どもは、様々な点で問題のある育ち方をしてしまう。したがって、ケア手当は、決して「中立的な」政策とは言えないばかりか、「無分別なimprudent」行動を助成する「誤ったperverse」政策なのである(このimprudentとperverseという単語が頻出)。それに比べると、BIは、最善ではないが、少なくとも「無責任な行動」に「分別ある行動prudent conduct」よりも「好意的な」扱いを与えない、という点で、ケア手当よりも優れている。ケア手当は、「bad choices」を支援してしまうが、BIは「単にそれを選択することを許容するだけである」(本論文17頁) 。「BIはケア手当の誤りperversityを弱めるか、または、除去する」(同18頁)。


 さて、僕自身は「すごい」議論だなと思うのだけど(著者の大学のサイトを見ると、他にも「すごい」ところがわかる)、それでも興味深いのは、彼女の議論が、「BIはケアへの手当ではない」ということを明確にしている、ということである。そして、それは、特定の家族形態を優遇しないのである(著者にとっては、子どもの養育に最適なはずのprudentでtraditionalな家族だけが助成されないのは、多分残念なことだが)。