O'Reilly, 2008 and Baker, 2008

  • Jacqueline O'Reilly, "Can a Basic Income Lead to a more Gender Equal Society?," Basic Income Studies, Vol. 3, No. 3, 2008.
  • John Baker, "All Things Considerd, Should Feminists Embrace Basic Income?," Basic Income Studies, Vol. 3, No. 3, 2008.


 O'Reillyは、BIに批判的ないし懐疑的。BIの提案は、ジェンダー平等のための必要なものの複雑さや差異を考慮に入れることができないだろう(ので、もっと具体的で複合的で国によって異なる政策手段を考えたほうがよい)。


 Bakerは、「で、どうなのよ?」的なタイトルとは裏腹に(?)、BI肯定的な立場からの議論。 彼も、参加所得やケア手当では、結局、女性の役割としてのケアワークをそのまま肯定してしまうと言う。BIは、ケアワークへの「支払いpayment」ではなくて、「普遍的な『サポート』」である。
 彼の議論の特徴は、この「BI=普遍的サポート論」を、「感情の平等affective equality」概念によって基礎づけるところにある。これは、愛情loveとケアcareへのアクセスは万人に必要であり、よって、その平等も重要な価値だということである。「感情の平等」から見るならば、性別分業には、次のような問題がある。一方で、男性は、ケアへのアクセスを妨げられており、ケアのニーズを満たすことができない。他方で、現状においてケアという活動への承認が欠けていることは、女性を苦しめる。そこで、「感情の平等」を実現するためには、ケアワークの意義が承認されるとともに、それが男女間で等しくシェアされることが必要となる。
 そういうわけで、ケアワーク従事の普遍的な機会を男女に提供することで、「感情の平等」を実現することができる(ので、BIが肯定される)。ただし、BIがそのように理解されるかどうかは、それが公的言説においていかにフレーミングされるかによるし、その公的言説のありかたは、より広範なイデオロギー的風潮によるだろう。
 なお、ケアワークには、相互性やコミットメントや愛情などの感情的なものが関わっており、有償ケアワークによる補完は必要でも、完全に代替されるべきではない。また、「男性のケアへのニーズ」に疑問を持つ向きもあるかもしれないが、著者は、ある調査を参照して、自分の議論を補強している。


 というわけで、Bakerの議論はなかなか興味深い。とくに、BI=普遍的サポート論と、政治的フレーミングの問題。