読書

女を幸せにしない「男女共同参画社会」 (新書y)

女を幸せにしない「男女共同参画社会」 (新書y)

 本書の一つの主張は、現在の男女共同参画の取り組みが全体として著者の言葉でいう「一億総働きバチ社会」を目指すものになっている、というもの。ネーミングの善し悪しはともかくとして、現状の男女共同参画の取り組みが、「女性の社会進出」→「女性の男性並み」化の傾向が強いことは言えると、僕も思っている。ナンシー・フレイザーの言うところの「普遍的稼ぎ手モデルuniversal breadwinner」の路線である。
 個人的には、本書の最も読ませる記述は、体験をふんだんに盛り込んで介護問題について論じた第3章だと思う。日本の介護のまさに「現場」の状況が痛いほどに伝わってくる。
 ただ、全体としては疑問の方が多い本と言える。第一に、まとまりがよいとは言えない構成上の問題がある。4章、5章、「ブックガイド」は、どうしてそういう並びになっているのだろうか。第二に、著者の構想する「男女共同参画」のイメージがよくわからない、という印象である。一方で「そもそも男女共同参画社会とは、女性が安心して子どもを産み育てながら、仕事も行えるような社会、男性も仕事だけでなく、家庭生活において家事や育児を行うような社会ではなかったのか」(6−7頁)と問いかけつつ、他方で上野千鶴子氏や大澤真理氏を「一億総働きバチ社会」作りの元凶であるかのように非難するとともに*1、「ジェンダー・フリー」を非難して男女の「違い」をことさらに強調しているようでもある。「男性も家事、育児を」と言うということは、少なくともある程度は性別役割分業、それを規定している「男(の役割)」「女(の役割)」についてのイメージ・社会通念を見直すことが伴わざるを得ないと思うのだが、著者の場合には、あまりそういう発想はない、ということだろうか。結局、「女の男並み化」「シングル化」を批判する著者の依拠している考えがよく見えてこないのである。

*1:上野氏が「女の男並み化」を目指しているわけではないことは、いくつかの本を読めばわかると思うが。