アクセル・ホネット『正義の他者』(法政大学出版局)の「世界の意味地平を切り開く批判の可能性」より(『思想』にも載りましたが)。
- 作者: アクセルホネット,Axel Honneth,加藤泰史,日暮雅夫
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 2005/05
- メディア: 単行本
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新たな世界に対する見方を喚起することでわれわれの価値確信をも変革しようと試みる、この意味地平を切り開くタイプの社会批判は、さしあたり論証による基礎づけの語彙に簡単に従うことはできない。むしろこの社会批判が効果的に作用することができるのは、意味の濃密化やズレを生じさせることで社会的現実について今まで気づかれなかった事実をあぶり出すような言語手段を用いることによってのみなのである。新たな意味連関を開くという作用をはらんだレトリック上の文彩(あや)として使われるのは、物語的な記述であり、また読者を引きつけるメタファーである。そして両方とも、指示連関へと集約することを通じて、われわれのもろもろの活動が織りなすネットワークの全体が違った光で見えてくるような、ある意味地平を切り開くことが目指されている。(86-87頁)
社会的世界についての新しい見方を喚起することによってわれわれの価値確信をも変化させることが意味を切り開く社会批判の機能であるなら、この批判は、レトリックによって媒介された言明である以上、
心理真理であるという妥当要求を直接掲げることはできない。寓話やメタファーや物語は新たな意味の重点連関を切り開くためのものであり、その効果は、レトリックを用いた説得というパターンで捉えられねばならないものであって、論拠を挙げて認識を納得してもらう観点から判断されてはならないのである。(87頁)