読書

読了。

ポスト戦後社会―シリーズ日本近現代史〈9〉 (岩波新書)

ポスト戦後社会―シリーズ日本近現代史〈9〉 (岩波新書)

第3章「家族は溶解したか」、第4章「地域開発が遺したもの」が特に面白かった。
思ったのはこんなこと。当たり前のことだが、企業は儲かると思えば投資し、儲からないと思えば撤退する。しかし、行政はいろいろな意味で撤退できない。そう簡単に撤退できないことがわかっているから、あらかじめ進出しなければよい、という話になるのは道理だが、そうすると、誰も進出しないで衰退するか、「時流に逆らう」ことになる。特に厄介なのは後者で、しばしば、「時流に逆らう」こと自体が何か致命的な問題であるかのように観念されがちだ。「致命的」に観念するというのは、純粋に意識の問題だけではなくて、「時流に乗る」ことがお得になるような助成金とか補助金とかがあって、しかもたいていの場合そういうものは、時限的だったりするから(この期日までに申請しないと助成は受けられませんよ)、言わば制度的に規定されていたりする。しかも、最近だと、助成や補助は、別の意味でも時限的、つまり最初の3年間だけ支援しますとかいうことだったりするので、大変だ。これは波がなくなったあとも、どうにか工夫してサーフィンを続けろというようなもので、結構大変なはずなのだが、人の長期的な合理性は限られているので、「そのときはそのときで何とかなるだろう」とか思いがちである(自分のことorz)。
さてどうする。。。

雑誌『創文』掲載文章をいくつかコピーする。本当は、2009年度に入ってからのものがお目当てだったのだが、なぜか見当たらなかったので、昨年の終わりごろの号のいくつかの文章のみ。
興味深かったのは、瀧川裕貴「リベラリズムと『社会的なるもの』の規範理論」『創文』2008年11月号。4ページの小論なので、もちろんもうちょっと説明が欲しいのだけど、それは雑誌の性格上仕方ないだろう。とりあえず、強制か自由かという発想ではなくて、規範理論の刷新には、「『社会的なるもの』の概念的解明とそのメカニズム分析」が必要であり、そのために「行動・社会諸科学との連携、対話をより重視しなければならない」という問題提起を興味深く受け止めたということだ。それがすべてではないとしても、規範理論的な論文・研究が進み得る一つの方向性を示している。

Claus Offe, "Wasteful Welfare Transactions: Why Basic Income Security is Fundamental," in Guy Standing ed., Promoting Income Security as Right, Anthem Press, 2005.
Promoting Income Security As a Right (Anthem Studies in Development and Globalization)

Promoting Income Security As a Right (Anthem Studies in Development and Globalization)

社会福祉をめぐる政治的決定には特有の政治的な「取引費用」があり、ベーシック・インカムはそれを低減させるので、「効果的effective」であると主張する論文。福祉政治では、「事実」そのものだけでなく、「事実」と見せるフレーミングや「人気」が重要な役割を果たすという指摘そのものは興味深い。
ただ、この論文でオッフェが言いたいことは、BIのための効果的なフレーミングを図れ、ということではない。ちょっとわかりにくいのだけど、多分、次のようなことだ。「貧困の罠」とか「行政の失敗」など、「社会保障をよかれと思ってやるとかえって悪い結果をもたらす」というタイプの解釈枠組みが多数ある。それらは、「だったら(本当は望ましいと自分では思っている)その制度を導入しないこともやむを得ない・仕方ない」と人々を納得させるのに寄与する。その結果、社会保障削減策が支持される。だから、福祉政治においては、(あるべき社会保障制度の提案ではなく)そのような解釈枠組みへの批判活動そのものがそのプロセスの多くを占めることになる。しかし、そのような活動自体も、政策の内容(=真実)そのものよりも、人気や受け入れ可能性を意識した活動となる。これは、政治的な取引費用と言うべきものである。BIならば、このような(というのは、つまり「人気取り」に奔走しなければならないという意味での)取引費用を低下させることができる。
う〜む、「人気取り」というとあれですが、政策が正統性を得るための意味づけや枠組みの提示は、「取引費用」というよりは政治の本質的要素であり、BIをそこでどのように提示するかが重要、という話になるのかな、と思ったのだけど、どうもそうではないらしい。あと、BIならばどうして費用を低減させることができるのかという点そのものも、実はよくわからない。


あと、同じ本のDaniel Raventos and David Casassas, "Republicanism and Basic Incone"では、物質的な自立が政治的自由の条件であり、「BIの導入は、非常に重要な社会経済的自立の達成を意味するだろう」と述べられている。