読書

 というようなグダグダした状態でしたが、ほぼ読み終わり。

所有と国家のゆくえ (NHKブックス)

所有と国家のゆくえ (NHKブックス)

 まとまった感想はうまくかけないので、断片的なコメントを。
1)経済成長を優先すると主張する稲葉さんは、スウェーデン型の福祉国家をどのように評価されるのだろうか。僕の理解では、スウェーデン(に代表される北欧諸国)は、普遍主義的な福祉とセットでかなり強い生産主義(productivism)へのコミットメントがあった。もちろん、それは「最小国家」ではないが、ただ単なる普遍主義的な福祉優先、というわけでもなかったはず。というよりは、要するに、戦後の福祉国家というのは、基本的には経済成長をセットとしてきたはずで、だからこそエコロジーや脱産業主義の観点から批判される、ということだと思うのだが、読んでいた印象では、この本では戦後的福祉国家のこの側面にはあまり注目されていないように思われた*1
2)アソシエーショニズム、協同組合主義に対する立岩さんのコメントは、興味深かった。「参加したい部分はあるけど、そんなのどっちだっていい、うまくて安いものをくれりゃ俺はかまわねえんだというところもある」(158頁)という人間観に立つことは、逆に言えば、「うまくて安ければ構わないという部分はあるけど、でもやっぱり参加もしたい」と思うときもあるというわけで、そういう両義的な存在としての人間像から出発するということに、個人的には興味を持っている。
3)マルクス主義の国家論は実証的なのかどうかという、ここのところぼんやりと気になっていた問題が、第4章で語られている。(ネオ)マルクス主義の国家理論というのは、いわゆる「実証」のための概念の操作化が行われているわけではなく(ということで、よく「反証可能性がない」というレッテルを貼られる)、かといってじゃああるべき国家像を示すという意味での政治哲学的な規範理論なのかというとやっぱりそうでもない。じゃあ何なのか?経験的でも規範的でもない中途半端な「理論」ということでおしまいなのか?・・・というようなことを、漠然と思っていた次第。
 第4章では、「実証的な国家理論が、単なる実証主義的な社会科学だったかというとそうではなくて、非常に広い意味での批判理論だったわけですね。だから本来は、規範的な提言をするための準備としてあった。」「実証は、ちゃんとした社会を作るための規範理論のための準備としてあり、それらをひっくるめて批判理論という。実証分析だったんだけど、同時に積極的提言だったわけではなくて、批判的・否定的な規範理論としてあった。」(210頁)とあり、そういう風に理解すればよいのかな、と思った次第。
4)最後に、ベーシック・インカムとかステイクホルダー・グラントといわれる所得保障の制度について出てくるかな、と思っていたら出てこなかった。立岩さんも、ベーシック・インカムについて論じそうでいながら、今のところはそれほど突っ込んでは取り上げていない(いくつかの論考で、少し言及されて入るが)と思うので、今後が楽しみ。

*1:いや、『経済学という教養』をちゃんと読んでいないので、そちらに書いてあったもしれません。