2019年を振り返る

 あまりこういうことを書いてきませんでしたが(「新年の抱負」的なことは時々書いていたと思います)、今年1年を振り返ってみます。
 研究面では、一番大きかったのは、まさについ最近出た、拙編『日常生活と政治――国家中心的政治像の再検討』(岩波書店、2019年)を刊行できたことでしょうか。いろいろな立場・考えの論考が収められているとはいえ、私としては、「政治=国家・政府」という政治・政治学観を見直す、といういつ頃からかそれなりに取り組んできた課題の、中間報告的なものができたと思っています。政治学の諸分野では、それぞれなりの方法の洗練・発展を、という流れがあります。その流れがダメだというわけでは全くありません。でも、私は、方法の洗練・発展だけが政治学における研究の活性化と発展のための筋道だとも思いません。「日常生活と政治」は、テーマ・発想のレベルでの転換を問いかけることで、政治学の研究の活性化・発展に寄与できればと思っています。

日常生活と政治: 国家中心的政治像の再検討

日常生活と政治: 国家中心的政治像の再検討

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2019/12/27
  • メディア: 単行本
 もしかしたら同じくらい大きかったことは、やはり今月になって刊行された『年報政治学』2019=II号(筑摩書房)に、拙稿「『自由民主主義を越えて』の多様性」が掲載されたことかもしれません。この論文は、公募論文として、つまり査読を経て掲載されたものです。私は査読を経た業績を、そうでない業績よりもアプリオリに高く見る潮流には疑問を感じています。しかし、現在の状況では、査読を経た業績を刊行することが大切であることも事実です。そういう意味で、この論文の刊行は大きなことであったと思います。また、この論文はかなり大きなテーマを扱いました。このようなテーマの論文が掲載されたことも、意義のあることであろうと思っています。
年報政治学2019―II成熟社会の民主政治 (単行本)

年報政治学2019―II成熟社会の民主政治 (単行本)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2019/12/19
  • メディア: 単行本
 その他には、今年は、永井史男・水島次郎・品田裕編『政治学入門』(ミネルヴァ書房、2019年)で、「デモクラシーを考えてみよう――みんなで決める複数のやり方」と題する章を執筆しました。これは、私が最近の全学教育科目(いわゆる教養科目)の「政治学」で話している内容を、かなり圧縮したものです。「かなり圧縮」ではありますが、「政治学は、みんなに関わる問題の決め方に関する学問」という私の考えを、それなりには伝えることができていると思います。
政治学入門 (学問へのファーストステップ 1)

政治学入門 (学問へのファーストステップ 1)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
  • 発売日: 2019/05/16
  • メディア: 単行本
 また、ほぼ同じ時期に刊行された、田畑真一・玉手慎太郎・山本圭編『政治において正しいとはどういうことか――ポスト基礎付け主義と規範の行方』(勁草書房、2019年)に、「熟議民主主義における『正しさと政治』とその調停――熟議システム論を中心に」を寄稿しました。近年の熟議システム論をそれなりにフォローしつつ、「正しさと政治」の問題について考えることができたということで、執筆者全員が私よりも若いという、そういう意味では自分にとって「画期的」と言えなくもない論集に寄稿できたことは、意義深いことであったと思っています。 その他、今年中に作業を進めたものとして、田村哲樹・近藤康史・堀江孝司『政治学〔アカデミック・ナビ〕』(勁草書房、2020年)が、来年1月末(または2月)に刊行予定となっています。この教科書も、それなりに以前から取り組んできたもので、年明けにようやく日の目を見ることになりました。もう一つの論文集の制作も、大詰めを迎えつつあります。そのほか、来年にはいくつか刊行予定と執筆予定があります。
政治学

政治学

 今年はまた、9月に初めてEuropean Consortium for Political Researchの年次大会に参加しました。ここには、欧米+オーストラリアの熟議民主主義関係の研究者も多く参加しており、私としては、何人かの研究者とは貴重な再会の機会となり、また、新たに多くの研究者と知り合うこともできました。「英語で書く」のは、依然として自分にとってはハードルが高いのですが、自分なりに頑張っていきたいと思います。
〔追記〕今年はまた、国内では、日本教育社会学会(9月)、日本政治学会(10月)、科学技術社会論学会(11月)と三つの学会で報告(+政治学会では討論)をする機会があり、1年間での学会報告では多分最多だと思います。それぞれ違う分野の学会なので、(特に政治学以外のところでは)自分が話すことにどういう反応が得られるのか、かなり不安ではありましたが、やってみると色々得られるものが大きかったです。
 研究のこと以外も書こうかと思っていたのですが、とりあえずこのあたりで。

『日常生活と政治』刊行

 以前に予告した、田村哲樹編『日常生活と政治――国家中心的政治像の再検討』(岩波書店、2019年)が、刊行されました。「政治学」にこだわりつつ(ただし、寄稿者の久保田裕之さんは社会学者ですが)、その上で様々な角度から「日常生活と政治」を検討することで、「政治=国家・政府」という政治(学)観を再考しようとする論集です。

日常生活と政治: 国家中心的政治像の再検討

日常生活と政治: 国家中心的政治像の再検討

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2019/12/27
  • メディア: 単行本

『年報政治学』に論文が掲載されました

 日本政治学会の学会誌『年報政治学』2019-II号(筑摩書房刊)に、論文「『自由民主主義を越えて』の多様性」が掲載されました。この論文では、「自由民主主義(liberal democracy)」の多義性、特に「リベラル」の部分の多義性に注目し、それぞれの「リベラル」の「乗り越え」という観点から見れば、現代民主主義理論にはいくつかの「自由民主主義を越える Beyond liberal democracy」試みが見られる、ということを論じています。
 この論文は、公募論文として査読を経て掲載されます。私にとっては、『年報政治学』での査読論文の掲載は、治学会の学会誌『年報政治学』2019-II号(筑摩書房刊)に、論文「『自由民主主義を越えて』の多様性」が掲載されました。この論文では、「自由民主主義(liberal democracy)」の多義性、特に「リベラル」の部分の多義性に注目し、それぞれの「リベラル」の「乗り越え」という観点から見れば、現代民主主義理論にはいくつかの「自由民主主義を越える Beyond liberal democracy」試みが見られる、ということを論じています。
 この論文は、公募論文として査読を経て掲載されます。私にとっては、『年報政治学』での査読論文の掲載は、2002年以来、17年ぶりになります。「査読雑誌への投稿など当たり前では?」と思う分野の方・世代の方もいらっしゃるでしょうが、政治学界隈のある世代以上では、それほど通例とは思われません(それでよいというわけではありません)。そんな中で投稿してみようと思ったのは、「このご時世なので投稿して査読を経て掲載されることもやっておかないとな」と考えたからです(なお、数年前にも某誌に投稿しましたが、その時は査読で掲載不可となりました…)。
 私は、「『査読付きの論文』だけが学術的に評価されるべき業績」という考え方には、同意しません。査読を経ない形で公表される研究にも、優れたものはあると思うからです。だからといって、査読制度に意味がないと言いたいわけでもありません。この仕組みは、その時々の学界の水準を示すことには貢献していると思うからです。ただし、形式だけですべてに序列をつけることには、慎重でありたいと思います。

年報政治学2019―II成熟社会の民主政治 (単行本)

年報政治学2019―II成熟社会の民主政治 (単行本)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2019/12/19
  • メディア: 単行本

まもなく刊行です『日常生活と政治――国家中心的政治像の再検討』

まもなく、私が編集の『日常生活と政治――国家中心的政治像の再検討』(岩波書店)が刊行されます。岩波書店のウェブサイトによると、12月25日の刊行予定です。少し遅めのクリスマス・ぷれぜんとにいかがでしょうか!・・・というのはともかくとして、「政治=国家・政府」という、なんだかんだといって政治学に広く深く根付いているように思われる想定を、「日常生活」をキーワードとして問い直してみよう、という本です。

https://www.iwanami.co.jp/book/b487933.html

日常生活と政治: 国家中心的政治像の再検討

日常生活と政治: 国家中心的政治像の再検討

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2019/12/27
  • メディア: 単行本

第22回社会政治研究会のご案内

第22回社会政治研究会(Social Politics Forum)を開催します。

○日時 2019年12月6日(金)17:30~19:40

○会場 名古屋大学全学教育棟北棟(情報学部棟)4階406(多目的講義室)
  (※ www.i.nagoya-u.ac.jp/access左下の「情報学部・全学教育棟」北側玄関から4階に上がり、エレベーターを降りて左手へお進み下さい)

《第一報告》西山真司(関西大学)
「政治理論をめぐるHowとWhy――『信頼の政治理論』が目指したもの」

参考)http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN978-4-8158-0960-7.html


《第二報告》遠藤知子(大阪大学)
「社会的投資戦略の再検討――ロールズの福祉国家型資本主義批判の観点から」


◆飛び入り参加も歓迎いたしますが、準備の都合上、事前に上村(kamimura[at]nagoya-u.jp)まで御一報いただければ幸いです。
なお、終了後の懇親会もぜひ御予定下さい。

西山さんの著書は、以下のものです。

信頼の政治理論

信頼の政治理論


【運営委員】大岡頼光(中京大学)、上村泰裕(名古屋大学)、田村哲樹(名古屋大学)、山岸敬和(南山大学)

第30回東海地区政治思想研究会について

下記の要領で、第30回東海地区政治思想研究会を開催しますので、ご案内します。
どなたでもご参加いただけます。


〇日時 2019年11月16日(土)14時~17時15分

〇会場 名古屋大学アジア法交流館2階レクチャールーム3
(※いつもと会場が違いますのでご注意ください。下記のキャンパスマップのC5・3の建物です。)
http://www.nagoya-u.ac.jp/access-map/higashiyama/law.html


〇報告
1)長野晃(慶應義塾大学)「帝政期エーリヒ・カウフマンに於ける君主制と有機体」(仮)


2)西村邦行(南山大学)「〈思想的伝統〉としての現実主義:なぜトゥキュディデス‐マキァヴェッリ‐ホッブズなのか」


※研究会終了後、懇親会を行います。


 事前申し込みは必須ではありませんが、特に懇親会に出席を希望される方は、できれば11月8日(金)までに、その旨を長谷川一年(kazuhase617[at]yahoo.co.jp)まで、お知らせいただければ幸いです。

【運営委員(50音順)】大園誠(名古屋大学/同志社大学)、大竹弘二(南山大学)、田村哲樹(名古屋大学)、長谷川一年(同志社大学)

シンポジウム「男女共同参画社会基本法とジェンダー平等――施行から20年を振り返る」

シンポジウム「男女共同参画社会基本法とジェンダー平等――施行から20年を振り返る」が開催されます。どなたでもご参加いただけます(参加費無料)。事前申し込みは必要ありません。当日、直接会場にお越しください。

○日時:2019年11月15日(金)13時(開場12時30分)~18時
○会場:名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリ(GRL)2階 レクチャールーム
○プログラム
【第1部:男女共同参画社会基本法施行から20年を振り返る】
◆基調講演:大沢真理(東京大学名誉教授)「男女共同参画社会基本法施行から20年――成果と今後の課題」
・コメンテーター:田村哲樹(名古屋大学:政治学)、宮澤祐子(愛知県女性の活躍促進監) 

【第2部:男女共同参画社会基本法から政治分野における男女共同参画推進法へ】
◆基調講演1:三浦まり(上智大学)「男女共同参画社会基本法から政治分野における男女共同参画推進法へ――継承と発展」
◆基調講演2:申キヨン(お茶の水女子大学)「女性政治リーダー養成の試み――パリテ・アカデミーの実践が示唆すること」
・コメンテーター:大河内美紀(名古屋大学:憲法)       

【第3部:地方都市における男女共同参画(パネル・ディスカッション)】
・ファシリテーター:荒見玲子(名古屋大学:行政学・地方自治論)
・パネリスト:伊東恵美子(名古屋市副市長)、矢口明子(酒田市副市長)、大谷基道(獨協大学)、大沢真理(東京大学)

○主催:名古屋大学大学院法学研究科
○共催:名古屋大学高等研究院
○後援:
・名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリ(GRL)ジェンダー研究集会開催助成金
・科研費基盤(A)「『資本主義と民主主義の両立(不)可能性』の政治理論的研究」
・野村財団社会科学助成「地方自治体における女性職員の人事管理をめぐる経年的比較実証研究」