読書

吉田徹『ポピュリズムを考える――民主主義への再入門』(NHKブックス、2011年)を読了。

ポピュリズムを考える 民主主義への再入門 (NHKブックス)

ポピュリズムを考える 民主主義への再入門 (NHKブックス)

民主主義とポピュリズムとの結び付きという著者の主張は、その通りと思う。つまり、ポピュリズムを単純に「非民主主義的」とは言えない、ということだ。
また、ポピュリズムが既存の民主主義の機能不全に伴なって表れること、その意味で、ポピュリズムを真剣に受け止めることは民主主義に「新たな息吹」をもたらす可能性を持つという指摘も、重要だと思う。
その上で、あえて注文をつけるとすれば、第5章の議論が十分に展開されていない点について、だろう。
特に、「人々」の構築が、「「負」の求心力ではなく人々が持つ情念とパワーを統合する「正」の求心力によって達成されるべき」(217頁)と著者が言う時、そのような「正の求心力」もまたポピュリズムの範疇にあるのか、それともポピュリズムと「熟議=参加」との「戦線協定」(221頁)によってなされるべきと考えられているのかは、必ずしも明確になっていないように思われる。
その一因は、恐らく、著者がポピュリズムによって既存の民主主義の機能不全が照射されるという機能的な側面と、ポピュリズムの具体的な内実とを十分に区別しきれていないことに求められるように思われる。ポピュリズムが民主主義の機能不全を照射するという点だけならば、「正の求心力」はポピュリズムによっては実現されない、ということになるだろう。他方、ポピュリズムには、しばしば排外主義等に帰結する面だけでなく、「正の求心力」も備わっている/備わり得るのだ、というのであれば、わざわざ、そのカウンターとしての、つまり「理性」の表象としての「熟議=参加」民主主義を持ち出す必要はない。ポピュリズムの正/負両面を腑分けし、前者の可能性を最大限引き出せばそれで議論は完結するからである。
ポピュリズムが必ずしも反民主主義ではない、という点を明確にしたことは、本書の重要な貢献である。その上で、問われるべきことは、「どのような民主主義か?」であるように思う。最近の自分の関心からすれば、それはreflectionを引き起こすような民主主義だ、ということになる(拙稿「熟議民主主義における「理性と情念」の位置」『思想』2010年5月号)。そうだとすれば、ポピュリズムがそれなりに民主的であることを承認したうえで、それがreflectionをどのような形で引き起こすのか/起こさないのかという問題を論じることが、民主主義の今後のあり方を考える上でも重要であるように思う。