個人的なあとがき

ちょうど刊行されたばかりの『模索する政治――代表制民主主義と福祉国家のゆくえ』(ナカニシヤ出版)には、「あとがき」があり、そこには、本書成立の事情がつづられています。ここでは、この本をめぐる、もう少し「個人的な」思いを「個人的なあとがき」のようなものとして書いておきたいと思います。


この本が出て、今一番感じているのは、僕の周りにいた人々との関係のことです。よい関係に恵まれた結果として、この本はできたし、そして、そもそも今の僕があるのだと、あらためて感じています。そして、そのように思うことのできる今の状況を、うれしく思っています。
この本の出発点が、名古屋「政治と社会」研究会という、クローズドでやっている研究会にあることは、本の「あとがき」に書いてあります。2002〜03年にかけて僕が、たまたま名古屋の大学に職を得た、この本の寄稿者の何人かと知り合ったことをきっかけとして、研究会が生まれました。
そのころ、僕は幸いにして名古屋大学に職を得ることができたところでした。でもまだ「若手」であり、同年代の同僚も少なく、仕事にも慣れていませんでした。かつ、学界に知り合いと呼べるほどの知り合いもいない(院生時代と違って、全くいなかったわけではないですが)状態でした。
他方、家庭では、子どもたちはまだ小さく、日々の子育てでかなり追いまくられている感もありました(もちろん、妻の方が大変だったことは間違いありませんが)。
そんな状況で、僕は、家庭以外の日々の生活で、わりと孤独感/疎外感を持っていたのだと思います。
そんな状況で偶然出会った、上記の皆さんたちとの飲み会は、本当に楽しいものでした。毎回、気がついたらあっという間に何時間も経っていたというくらいのテンションで、話をしていたのでした。幸いなことに、今でもそれに近い盛り上がりで飲み会をやることができています。
話が合った一つの理由は、皆が「田口富久治先生の孫弟子」だったことにありました。「孫弟子」というと、何だか学閥的なものを感じる人もいるかもしれません。でも、僕は、その時期まで、自分の大学出身以外の「孫弟子」の人たちのことは知りませんでした。だから、出会ってみたら、たまたまそうだった、という話なのです。
ともあれ、研究会が立ち上がると、毎回の研究会も楽しみの一つになりました。当時は、名市大でやっていたのですが、毎回、最寄りの地下鉄駅からキャンパスに向かう時は、とてもワクワクしていたのを思い出します。
研究会後の飲み会の話題は、純粋に学問的なこと、学界のよもやま話、大学・教育をめぐるあれこれがほとんどだったと思います。そういう席だし、友人同士の関係だから、愚痴や(学界をめぐる)ウワサ話なども、それなりに(かなり?)飛び交っていたと思います。それでも、話題はいつも、基本的に「マジメな」ものでした。それがまたよかったのだと思います。もっとも、研究者のトークとは、そういうものかもしれませんけれども。
そんなわけで、(飲み会も含めた)この研究会は、僕にとっては、研究生活上の「ホーム」のようなものでした。


そんな研究会の中から、「本を作ろう」という話が出てきた当初、正直言うと、僕は、あまり乗り気ではありませんでした。僕にとっては、この「ホーム」は、ただ話をできるだけで、それだけで十分だったからです。
本を作ることは、簡単なことではありません。いろいろ面倒なことも出てきます。その面倒な作業に友人同士で取り組むことで、その関係が壊れてしまうことを、僕は恐れたのです。


でも、結果的には、そうした心配は、全くの杞憂に終わりました。
この「ホーム」は、壊れることはありませんでした。
それどころか、関係は、もっとしっかりしたものになったような気もします。
そのことを、とてもうれしく思っています。


もう一つ、この研究会メンバーとの関係では「ゲスト執筆者」にあたる皆さんとは、この本を作るまでに、学会や研究会などでお会いする機会があり、「いつか一緒に仕事ができれば」と思っていた方々でした。そのうちの何人かの方と初めて出会ったのは、ちょうど10年前です。その時に頂いたコメント、その時の印象は、今でもよく覚えています。みなさんには、グラントもない出版計画に、快くお付き合いいただき、とても感謝しています。おかげで、僕自身の「長年の願い」の一つがかないましたし、もちろん、本書の内容は、各段に素晴らしいものになりました。


ともあれ、こうしてたくさんの研究上の優れた友人たちのおかげで、本書はできあがりました。本当にありがとうございます。


最後に、結果的に、田口先生の「孫弟子」世代に加えて、篠原一先生の孫弟子世代の方々に執筆頂くことになったおかげで、篠原先生、田口先生のお二人に、「あとがき」でお礼を申し上げることができたことも、うれしいことでした。
マルクス主義と政治(学)」をめぐって「模索」を続けられた田口先生、「市民の政治(学)」と「歴史政治学」を「模索」されてきた篠原先生、お二人の先生の「模索」の姿勢、その成果から、有形無形の多くのことを学んできたように思います。あらためて、先生方からの学恩にお礼を申し上げたいと思います。


大学院生時代にある先生から、研究者にとっては、「尊敬する先生」「よきライバル」「気が置けない友人」の三つを持つことが大切、という話を聞いたことがあります(正確な表現は少し違ったかもしれませんが)。
『模索する政治』の出版作業を通じて、僕には、そうした人々がいることを、あらためて認識することができました。それはとても幸いなことでしたし、だから、この本を作ることは、僕にとって、とても大切な出来事になったと思っています。